one room

忘れたくないことと、忘れてしまったことについて

ササラ電車

冷たい空気が澄んでいて、

私は息をすることすらうまくできない。

吸いこんだ冷たい塊は、

少しずつ喉元に溜まっていく、

私は、そこから、だんだん凍ってしまいそう。


朝の透明な鏡に映る自分。

どんなに顔を洗っても、髪をとかしても、

数日前にしたことは消えないから、

醜いし汚い。

一回だけなら、気の迷いだって、

仕方なかったって、言い訳ができた。

でも、もうだめだと思った。

私は、そういう種類の苦痛に耐えられる側だった。

好きな人は、そんな私を、

肯定も否定もしないと言う。

すべてを任せてしまおうとする私に、

自分の意思を探させようとする。

私は私を許せるのか、肯定して、認められるか。


頼りない、ふらふらしている私を写した鏡は、

水道から出てくる暖かい水で曇っていく。

だんだん、見えなくなっていく。

私はなんとなく安心したりして、

コーヒーを作りにリビングへ向かう。

外はまだ、濃い青に沈んだまま。

日が昇るまでに、もっと寒いところへ出かける。

私はもう一度だけ顔を洗った。

冷たい床を爪先立ちして歩く。

なんで私はこんな風になってしまったのかな。

不登校の弟と笑い合う平日の昼間思い出して、

少しだけ悲しくなった。


もうすぐ、時間。

時計を振り返りながら、手探りで自分の靴を探して、

ふわり青に沈んだままの道路に飛び出す。

そのまま、バイト先まで流されていく。

寒いから、一つだけこっそり持っているカイロは、

寒さを少しでも和らげてくれるだろうか。