one room

忘れたくないことと、忘れてしまったことについて

空の上の人

死んでしまった人が、生きていた頃、最後に作った曲を聴いた。私はその人のこと、何も知らないけれど、曲を聞いている。本当の終わりは死ぬことじゃないと知っているけれど、出来れば死なない方がいいことも、同じように知っている。電気ストーブの前で、低…

黄色の街

朝日が登る前の薄明かりの中、長い長い廃墟の階段を上がった。所々錆びている手すりが手ひらに小さな傷をつけていく。携帯がなっていた。この世の終わりみたいなけたたましい音量で鳴らす、ニルヴァーナの着信音。私はそれを無視して、ひたすらに階段を登っ…

空白に見つめられた

生後三ヶ月から幼稚園くらいまでを過ごしていた街。私は、茫漠とした幼少期という表現が好きだ。優しい灰色の靄に包まれて、ゆっくり明けていく空を眺めているような、もしくは、卵色のタオルケットに包まって、夕方の西陽に照らされているな、そんな写真1…

約束

今後お互いが音楽してたらまた同じステージに立とうね私の携帯に表示されたメッセージ。先輩からだった。静かで、責任なんてどこにも無くて、確定していない未来に向けられた言葉。それでも、芯の通った一文で、背筋を正される。この人は、いつだって絶対と…

その差、60cmに

地元のバンドの先輩に誘われ、ライブへ。フロアから、ステージまで。それが、月日なのか、運なのか、努力なのか、思い、なのか。私には分からなかったけれど、泣いてしまった。悔しさとかじゃなく、純粋に、演奏に圧倒されて。マイクスタンド倒してしまうほ…

装苑

クリサンセマムのリング、鈴蘭のピアス、友だちがくれたダイアモンドのネックレス、ブラックワンピースに、レースアップのハイヒール。私のことを守っていてください。冷たくて綺麗なものは、護身用の特別仕様。真っ白のBABY-Gの腕時計、真っ黒のパーカー、V…

1年の始まりの夜に

行き交う人。賑やかな屋台。寒くはなかった、あちこちから湯気。笑う人々の口元も白く霞んでいる。忙しそうな巫女さんたち。どこかのテレビ局のカメラ。隣で、彼氏の愚痴をこぼす友だち。全てが愛おしくて、全てが今にも無くなってしまいそうで、私はしゃが…

共感につき

最近あまりに傷つくので、共感することを、初めは無意識的に、最後には意識して、サボっていた。いつだって人との関わりで悩んでいたし、ずっと苦しかったから。人に意識を向けず、自分と一人遊びに興じた。そんな時、ギターのお兄さんが、「今日、練習のあと…

相違する夢

私は下着だけの格好で、ストーブの前に三角座りをしていた。近くのテレビで紅白が映されていて、好きな人は私の隣にやって来ると、みかんを食べながら、「あ、SMAPだね」と呟いた。「そうですね」と返事をした。笑顔で歌い、踊る彼らを見ながら、私たちは何故か…

緩やかな

「もうすぐ今年が終わるね」と、ギターを丁寧に柔らかい布で磨きながら、お兄さんは言った。12月19日の、午後10時のこと。私は寒くて、セーターにコートを着ていたのだけれど、薄い長袖一枚のお兄さんは、季節外れにも、暑いなぁと呟いた。私の部屋に、ずっと…

痛み止め

桜を見上げる春が過ぎて、雨を睨む梅雨を明けて、花火を見あげた夏が終わり、雪を望む冬になった。季節は巡り、お気に入りのもの達は、少しずつくたびれていく。体重は何故か10キロも減った。安定剤も眠剤も、もう多分使うことは無いんだと思ってる。一年前…

吐息

私は友だちの横顔を見ていた。すぐ近くにいるけれど、彼女がもう、とんでもなく遠い場所にいることを、私は諦めながら理解していた。煙草を吸う横顔は、いつ見ていても綺麗だった。多分どんなに傷つけられようと、許してしまうような、少し怖い美しさ。「ナナ…

留まる

白い腕時計を買った。遠くに移り住んだ友だちと、久々の電話だった。友だちに、肌の色が白いから、白色の物が似合って良いねと言われた。大学までの道のりを、毎日自転車で通っているという友だちは、Twitterに載せていた写真の中で、一際目立って健康的な肌…

戸惑いへ

誰か知りませんか?夜明け前、夜ふかしの後、うっかりしていたうたた寝から覚めた人、車のドアを開いて、ひんやりとした空気に驚きつつ、しんとした空の紺色を、胸いっぱいに満たす時。ふと息をつき、車の中には、隣心地よい人が寝息を立てていて、今登ろう…

慈しむ

すっかり昼と夜が溶けてきた。ねぇ、素足で駆けていたあの頃は、もう少し壊れていた気がする。お兄さんに言われたこと、騙されたと思って信じてみている。生きていくことに、必死。携帯代の支払い、ことごとく忘れているけど、美容室の予約は忘れなかったり…

変化と恒常と

シンプルな服しか着なくなった。無地のシャツにスキニーやパーカーばかり。突然服の系統が変わることはあれど、ここまでの変化は少し以外だった。それでも何故か、お兄さんには、可愛くなったねと言われていたらしい。らしい、としか表記できないのは、友だ…

終わりの夢

世界が終わる夢を見ました。友だちは、そんな時もバイトをしていて、オムライスを作っていました。私はそれを食べながら、友だちの母親が亡くなったことを聞きました。それから私は鳥になろうとしました。洋服を見つけて、何故かお兄さんのバンドのドラムの…

知らない街へ、四角い車で

私は紺色のワンピースを着ていた。もう、可愛い服は着ないと決めたのに。足元おぼつかない靴を履いていた。少し息苦しい、地下シェルターの中の、トンネルのような場所。オレンジ色の電球が上に点々ととついていて、私はそれに照らされていた。きっと触った…

シャンプーとピアス

シャンプーから始まる色んなものを、髪につけは流すことを繰り返した。最後にシャワーを浴びて、水を切る。ベランダからとってきたTシャツを着た私は、ふろーらる、な香りになっている。甘ったるくて、あまり好きな香りではないけど、髪も体も、酷く乾燥しや…

雨とアメスピが二本

雨の手前、立ちすくむあなたを見ました。ため息をひとつ。リハーサルは四バンド目に差し掛かっていて、扉のむこうから、音が漏れてきていました。近くにいた金髪のドラムのお兄さんは、腕立て伏せをしながら言います。「〇〇さんがいるのに、雨なんて珍しいで…

少し前のこと

午前10時20分。好きな人の家の近くのスーパーの前を歩く。背中にはギター、手には、3分の1程残った缶ビール。手短な溝を見つけて、ビールを流す。四時間前に開けられたそれに、炭酸っぽさは残っていなかった。昼前の刺すような日差しを反射して、きらきら…

夏の願い事を供養する

この夏にしたいと願って、でも実現する事はなさそうなことを、七月の最後の日に、書き出すことで、これを供養としようかなと思う。①友だちと、花火をしたい。一つ目のこの願いは、半分かなっている。昨日、友だちと花火をしたのだ。でも、したかった相手が違…

看板が自販機になる夜

今日もスタジオ終わりに、ギターのお兄さんとラーメンを食べていました。いつもとは違って、楽器屋さんの近くのお店です。私たちは、隅っこの席に座って、さっき私が楽器屋さんで買った、エフェクターの話をしていました。ブルースドライバーとチューブスク…

二日酔いのビール

三人で台所に立っていた。ギターを弾くお兄さん二人と私。今お風呂に入っている、ギターのお兄さんが上がってくるでに、冷えたビールと、焼きたての餃子、カップラーメンを作るためのお湯を用意しなくてはいけない。さっき、1週間冷蔵庫で寝かされ続けたカ…

長袖の私と七月

七月になった。私は未だ、長袖を着ている。扇風機の音だけは、鳴り止まずにそこにある。今日、ふと気づいたら、コード譜が読めるようになっていた。今までも、意味がわからないわけではなかったけど、タブ譜の方が、読みやすいなぁと思っていた。それが、突…

薄まりゆくもの

最近、過去最大級の人数で、ラーメンを食べに行った。六人。今までどれだけ閉鎖的だったか思い知る。その日はとても楽しかった。人見知りを克服できて、良かった。ペンタトニックスケールとか、教えてもらった。とても便利なものらしいので、いつか使いこな…

食べること、それから

しばらくまともな食事をしていなかった私の、久々の夜ご飯はラーメンでした。練習終わりに行く、いつものラーメン屋さん。ギターのお兄さんと一緒に食べました。運ばれてきたラーメン。店員さんにお礼を言います。お箸を割る音。そのときわたしがそれを口に…

一年前に

自殺未遂をしてから、もうすぐ一年になる。最近、大きな低気圧がやってきて、ものすごい量の雨を降らせているけれど、確か、私が死のうと決めた日は、今日に風を足した、台風のような日だった。あの日の私は、まだ正社員で、薬局の事務をしていた。なんとも…

悲しさを振り切って

私は、悲しくて、悲しくて、少し早めに出した扇風機の、「弱」のボタンを押して、そのままずっと、泣いた。出てくる涙は扇風機に乾いていくから気にならない。携帯を開いて、SNSに「もうだめだ死にたいー!」と、書き込んで寝ようとした。すると、好きな人か…

淡水の世界から

先日から続く鬱状態は未だに尾を引いています。引き金となった出来事は、まあなんとなく分かってる。一人ぼっちにされたような気がした。本当に怖くて寂しい。誰かに傍にいてと願うのに、誰のことも気遣えない状態の自分が怖くて、誰にも近づけなくなってい…