one room

忘れたくないことと、忘れてしまったことについて

空に浮かべ私

夜中、どうしても寝付けなくて、
不安でいっぱいになってしまった。
メリーゴーランドの缶を探した。
窓から入る冷たい風が、
かけてあるコートを揺らす。
八月なのに、まだしまっていなかった。
季節はずれの灰色のコート。
今すぐに羽織りたいくらい、
今夜は寒い。
手元の缶を開ける。
中に所せましと押し込められている薬たち。
パキシルリスミー、その他、
名前も覚えてないようなものとか。
いっぱいいっぱい。
ずっとストックしてた。
今、保険証がなくて病院へ行けない。
手持ちの薬もそこを尽きている。
本当は、それらの薬はいつかのためのもので、
使わないようにしていたから、
少し罪悪感を感じつついくつか適当に飲む。
こうしないと、もう無理だと思った。
「薬なんてなくても、いつか眠れるようになるよ」
無責任で最高に優しい声を思い出す。
どうしようもなく泣きたくなる。
煙草も吸った。
心の靄は、今日に限って白い煙に溶けていかない。
霞む視界、目はもう何も見たくないみたいだった。
祖母の梅酒を煽るように飲んだ。
もう全部手放して遠くへ行きたかった。
救急車で運ばれて着いた病室は、
静かで心地よかったなぁって思い出した。
こんな夜、誰に助けを求めればいいのか分からない。
空には、独りぼっちの集まりが光っていて、
怖くなってしまう。
この、缶の中に入ってる薬は、
生きにくい人が、
それでも生きていくためのものだ。
でも、それを集めて一気に飲めば死んじゃう。
ようするに、
生そのものの攻撃性に耐えられないんだ。
数粒なら助けとなるけど、
まとまると、私にとどめを刺す。

私は、未だに生との距離感が掴めない。
空に浮かんで、
ぼんやり地球を眺めるような、
そんな距離感じゃだめかな。