one room

忘れたくないことと、忘れてしまったことについて

寂しさピアス

夜中にLINEを飛ばします。
私の言葉は、夜の青の静けさに、
伝えたい感情をミュートされているみたいで、
友だちに、届きません。
窓から身を乗り出してみる。
少しでも、近くへ行きたかったのだと思います。

身を乗り出すと、遠くに光る信号機が見えました。
夜の青に飲み込まれない色。
私は、「進め」と「止まれ」の間。
二人の距離に、感情の機微に、
「注意して」言葉を飛ばし続ける。

「じゃあまた、明日。」
私は少し寂しくなります。
イメージは、砂漠で一人ぼっちで寝てるラクダ。
「うんっ!」
元気に返信したけれど、寂しさはどうしようもなくて、
久しぶりに煙草に火をつけて、
真っ白なため息をついた。
風がないせいか、
いつまでも私の顔の周りに漂う、
鬱陶しい煙。
ぼんやりと見つめていたら、
携帯がピカピカ光りながら私を呼びます。
さっきの友だちからでした。
この友だちは、
私が煙草を吸うことを嫌だと言っていたので、
火を消す。
電波かなにかに乗って、
この人のもとまで、煙が流れないように。
とくに用事はないので、
二人とも、とりとめのない話を続けます。
さっきまであったはずの、
顔のまわりのため息は、
夜の青に溶けだして見えなくなります。
夜はなんだか、
空に大きな鯨が泳いでいるような気がして、
「くじら」と呟いてみました。
電話の向こうで、
「えっ?」と言う友だち。
「ううん。なんでもない」と返事をします。
不思議そうにしている友だちの声を聞きながら、
もう一度空を見ました。
鯨はもうそこにはいないみたいで、
さっきの私の独り言が、
聞こえてたのかなと思います。

いつの間にか私は眠っていたみたいで、
鯨も夜の青も、影すら消していた頃、
ぼんやりと目を覚ました。
床で寝ていたせいか、
体のあちこちが傷んでいます。
プールの後のような気だるさもあいまって、
床に倒れ込みます。

なんとか体を起こしてみる。
窓の外を見ると、
網戸に蝉がしがみついているみたいでした。
なるほど、私はこいつの鳴き声で起きたのです。
「うーん。夏だ」

外へ出ると、
私の周りを夏が取り囲む。
色も、音も、風も、匂いも、
すべてが夏だと主張しているようです。
私は少し立ち止って、
それからまた、友だちの家へ向かいました。

友だちは、とてもベースが上手で、
自分のギターの音を聞いて、
少し焦ってしまう。
アンプに繋いで、gainをあげると、
少しごまかせる。
でもきっと、ギターのお兄さんは、
そんなのお見通しなので、頑張らなければいけません。
しばらくすると、
友だちが寝てしまいました。
私は、そこらへんにある漫画を借りて読むことにします。
友だちの持っている漫画は面白いものばかりで、
隣で寝息を立て始めたことも気にせず読みました。
窓の外から、大きな雨の音が聞こえてきて、
少し怖くなったりしました。
気にしなくていいように、
イヤホンで楽しい曲を聞きます。

ギターのお兄さんから電話がかかってきました。
起きた友だちと二人で挨拶する。
用件は、明日の、ライブのことでした。
楽しみに思いながら電話を切る。
ステージの上で、
素顔とは全然違う化粧をした、
少し怖いお兄さんを想像します。
お兄さんとの電話は楽しい。

電話を終えると、
時計は晩ご飯の時間を示しています。
私たちのお腹もなりそうです。
二人で悩んだ結果、焼肉に行くことにします。

金曜日の夜は、
お店がとても混んでいます。
家族連れがとても多くて、
見ていてとても怖くなります。
私以外の家族は、
今日は、どこで何を食べているのでしょう。
ここにいると、苦しいので、外へ出ます。
順番がくるまで、
近くのスーパーへ行きました。
この時間のスーパーは、
怖い人たちが多いです。
そういえば、
友だちの髪はとても明るい色なので、
少しだけ不良みたいでした。
適当に店内を歩き回っていると、
ピアッサーが売ってあるのを見つけました。
私の左耳には、
友だちの開けてくれたピアスポールが空いています。
もう一つ、増やそうと思い、買うことにしました。
友だちは、初めてのピアスです。
ご飯を食べたら、開けあいっこすることになりました。

夜の横断歩道、今日は青信号なので、
どんどん歩いていきます。

別れ際、ちょうど十二時頃、
二人でピアスを開けました。
小さな穴にキラキラと光る石を埋め込みます。
私は透明の石を、
友だちは銀色の丸を耳に光らせます。
寂しさも、こんな感じで、
キラキラ光る綺麗なもので、
埋めることができればいいのにと思います。