one room

忘れたくないことと、忘れてしまったことについて

1時間半

お兄さんは、コンビニやスーパーへ寄ると、

「なんでも好きなの持っておいで」って言う。

だから私は帰りの車の中で、

ほうじ茶チョコと、抹茶のポッキー、代わる代わる食べていた。

帰るまで1時間半くらいかかるし、そのお供にと、お菓子が二つ。


何となく、Paul Smithのセットアップの話を思い出しながら家へ戻る。

四月には出番が来るらしい。


ちょうど県の境目に着いた頃、

降っていた雪の勢いが増してきた。

人からものを借りるのがとても苦手で、

お兄さんが上着貸すと言ってくださったのに、断ってしまったのを後悔した。

優しさすらうまく受け取れないのか、私は。


家に着く頃には、すっかり真っ白になっていて、私は車から下りると、

小さな雪だるまを作った。

朝一番に溶けるように、日の当たる場所に置いた。

花束を贈る人は、それを贈られた人が、どんな気持ちで花々を看取るのか知らない。

それに似た感じで、溶けかけの雪だるまが苦手だ。

私が目覚めるより先に、水になって、乾いて、空気中に浮かんでいてほしい。