one room

忘れたくないことと、忘れてしまったことについて

その差、60cmに

地元のバンドの先輩に誘われ、ライブへ。
フロアから、ステージまで。
それが、月日なのか、運なのか、努力なのか、思い、なのか。
私には分からなかったけれど、
泣いてしまった。
悔しさとかじゃなく、純粋に、演奏に圧倒されて。
マイクスタンド倒してしまうほどにギターを振り回し、
フロアに向かってスティックを投げた。
投げられたスティックは、
知り合いめがけて放物線を描き、
「スティック痛いぞー!」と、
野次になって返っている。

泣きながら私は、
どうしてもあの場所を諦められないな、と思った。

何バンドか見たあと、先輩が話しかけて下さって、
成人おめでとうとか、髪切ったんだねとか、
二三言交わした。

ライブハウスから出ると、
駅前の道をなんとなく歩いて、駅までついた。
なんとなく振り返った時に見た、
背の高いマンション郡の明かりに、
先輩たちのバンドの、本当の幸せとは?みたいなMCが頭をよぎった。
そのうち駅に着いてしまったので、
なんとなしに構内の喫茶店へ入った。
甘そうなケーキと、ホットコーヒーを頼んだ。
今それを飲んだり食べたりしながら、
これを書いている。

私は、一人でお店に入り、注文が滞りなくできるようになったのが、最近のことなので、
それが嬉しくて、ついつい外食してしまう。

今まで、人前でメニューを見て、決定して、伝えることができなかった。
締め切られた狭い空間に、自分で扉を開けて入っていくことができなかった。

良かった、なんとか社会の中でやっていけるぞと、私は1人で喜んでいる。
携帯代の支払いが、未だに出来ていない(お金は準備できるのに、何故か億劫になってしまい終わっていない)ことは、棚に上げて。

コーヒーがまず空になった。
甘いケーキもそろそろ無くなる。
私はもう暫くここにいたいような気がして、
少しだけゆっくりと、フォークを動かしている。