緩やかな
「もうすぐ今年が終わるね」と、
ギターを丁寧に柔らかい布で磨きながら、
お兄さんは言った。
12月19日の、午後10時のこと。
私は寒くて、セーターにコートを着ていたのだけれど、
薄い長袖一枚のお兄さんは、季節外れにも、
暑いなぁと呟いた。
私の部屋に、ずっと暖房器具がなくて、
最近やっと買った話をした。
「相当嫌われとったんやね、」と言われて、
何かを突きつけられた気がして、
逃げ場を失った。
返す言葉が見つからないので笑った、
なにかに気づいたように、
お兄さんは練習曲の話題に変えた。
ドラムのお兄さんとのスタジオを、
見学させてもらった。
オリジナルの曲を一緒に煮詰めてもらったりして、
どんどんかっこよくなっていく過程は、
ちょっと魔法みたいだった。
帰り際、明日バイトが早いから、
今日ご飯行けないと、謝られた。
そんな約束していなかったし、
謝られるなんて思ってもなくて驚いた。
でも、ご飯行きたかったなぁと、
少しだけ残念に思った。
教えてもらったフレーズ繰り返しながら、
適当なお菓子を食べた。
甘いものばかり食べてしまう。