one room

忘れたくないことと、忘れてしまったことについて

知らない街へ、四角い車で

私は紺色のワンピースを着ていた。
もう、可愛い服は着ないと決めたのに。
足元おぼつかない靴を履いていた。

少し息苦しい、地下シェルターの中の、トンネルのような場所。
オレンジ色の電球が上に点々ととついていて、
私はそれに照らされていた。
きっと触ったら、暖かいようなオレンジ色。

いつの間に、少し冷たい空気の、どこか普通でありふれていそうな古い家の中に移動していた私は、
知らない人に囲まれて、そこそこ楽しく談笑していた。
廊下に出た時、私に続いて、1人男の人が部屋から出てきたのが分かった。
外へ行こうと、眼鏡をかけた男の人に誘われて、外へ行く。
さっきまで、夜だと思っていたけれど、
外は、多分、とても早い朝だった。
東側がとても綺麗なオレンジ色だったから。
とても心地いい風、崖になっているところの下には、素朴な街並みが見えた。
草が自由に生い茂っていて、何台かの車がある。
彼は、四角くて、黒い大きな車を選んで、私を乗せると走り出した。
さっきのトンネルを抜けて、まるで何かから逃げるみたいに。
私は、しばらく黙っていたけれど、
「ねぇ、これは、どこか目的の場所についたら、さっきの家に戻ってしまうの?」と聞いた。
すると、「そんなわけない、ずっとこのままだよ」と言われた。
私はなんだかすごく安心して笑った。
それから彼は、すぐに携帯電話を取り出すと、
引越し業者に連絡していた。
どこか知らない街で、二人で暮らそうということらしい。
明日には荷物が運ばれるので、今日中に家を決めなくてはいけない。
そして明日、私はまだ知らない家で、
運び込まれる荷物を待つのだ。

私たちは、どんどん景色を追い越して、どこか知らない、これから住む街を探した。
今までに感じたことがないような、
果てしなくてずっときらきらした景色を見ていた。

朝起きて、夢から覚めた私は、
あぁ、あのまま彼とどこかに行けば、幸せになれたのかなぁと膝を抱える。
メールの履歴の、
「俺よりギター上手くなったら、死んでいいよ」という一文をどう扱っていいかわからない。
やっぱり夢のなかにいればよかったと、そんなことを思ってみた。