one room

忘れたくないことと、忘れてしまったことについて

少し前のこと

午前10時20分。

好きな人の家の近くのスーパーの前を歩く。

背中にはギター、手には、3分の1程残った缶ビール。

手短な溝を見つけて、ビールを流す。

四時間前に開けられたそれに、

炭酸っぽさは残っていなかった。

昼前の刺すような日差しを反射して、

きらきら光るそれに、私は目を細めた。

太陽の光になれていないので、

露出している顔と手のひらが痛い。


スーパーの中に入ると、ひんやりとした空気が心地よい。

二日酔いと、寝不足頭を少しずつ冷やしていって欲しい。

冷えている緑茶のペットボトルを2つ取って、レジへ並ぶ。

見かけた日焼け止めもついでに買う。


さっきまでいた好きな人のマンションの前まで戻り、

ギターのお兄さんに到着の電話をする。

それから、高いマンションをぼんやり眺めながら、

一時間くらい前、

丁度お兄さんはお風呂へ行っていなくて、

好きな人と2人きりになった時の会話を思い出す。

「1年で色々あったねぇ」

「そうですね」

好きな人の言葉は、一体どんないろいろを指しているか、

図りかねてしまい、曖昧な返事しかできなかった。

しばらくすると、私と同じくらい眠そうな、

お兄さんが出てきた。


昨晩は深夜1時に電話があり、

それから好きな人とお兄さん含めた5人で、

ギターを弾いてお酒を飲んで遊んだ。

一人じゃない夜は、

ひっそりと足早にふけていって、

今はもう朝と昼の間。


これから中古のアコギを見に行く。

それからスタジオ。


流れ出すビールは愉快な夜の名残。

愉快な気持ちを、忘れずにいられたらと願う。