one room

忘れたくないことと、忘れてしまったことについて

看板が自販機になる夜

今日もスタジオ終わりに、

ギターのお兄さんとラーメンを食べていました。

いつもとは違って、楽器屋さんの近くのお店です。

私たちは、隅っこの席に座って、

さっき私が楽器屋さんで買った、

エフェクターの話をしていました。


ブルースドライバーとチューブスクリーマー。

沢山並んだエフェクターの中から、

好きな人と、ギターのお兄さんと、私で選びました。

合計で二万円と少しでした。

決めた時、好きな人はパッチとか、

たこ足の配線みたいなのを持ってきて、

これつけといてあげるね、っておまけにくれました。

あとでお兄さんに聞いたら合計一万円くらいになるらしいです。

ギターの売り場には、お兄さんと同じESPのVが置いてあり、

その横には、お兄さんの写真が貼ってありました。

それを貼った本人である私の好きな人は、少し誇らしそうに、

貼られている本人のギターのお兄さんは、

少し恥ずかしそうに笑っていました。

会計をする時、ふと時計を見ると、

十時を少し過ぎていました。

ここの閉店が九時だったことを思い出した私たちは、

すみませんと謝りましたが、

好きな人は、「全然気にしなくていいよ」と笑っていました。

帰り際に、「ギター頑張ってね、続けてね」と言われます。

私は、「はい」と答えました。

お店を出ると、警備員の人が待ち構えており、

「右の角にあるエレベーターで上の駐車場に出て下さい」と、口早に説明していきました。

いつもと違う出口から出たせいか、

車の場所を探すのに少し苦労したりしました。

案外外の方が涼しいことに驚きながら、

少し立ち話をします。

そして、お腹がすいていたので、

来る時に見かけたラーメン屋さんに行くことになりました。


「きっと、スタジオの大きなアンプで音を出せば違いもわかりやすいよ」

お兄さんの低い声は、ざわついた店内で、

唯一落ち着けるような響きが含まれていた。


お兄さんはラーメンとチャーハン、私はラーメンを頼みました。

途中でお兄さんはチャーハンを半分分けてくれたりしました。

その時、店員さんに、

「すいません、取り皿もらえますか?」って聞いてるお兄さんを見て、

小さな頃、親が食べてるものを、そうやって分けてもらってる子供を見て、

少しだけ羨ましく思っていた自分を思い出した。

お兄さんはとても手際よく注ぎ分けていく。

「ありがとうございます」って、お兄さんからチャーハンを受け取っりました。

とても美味しかった。


確か、お兄さんが3杯目の替え玉を頼んだ時、

店員さんが、「あの…音楽とかやられている方ですか?」

とお兄さんに話しかけた。

「あぁ、そうなんですよ」ってお兄さんは答えていた。

耳の下辺りから、真っ赤に染まる髪と、

とても細いシルエット、

少し目立つのかなぁと思っていたら、

お兄さんも同じようなこと考えていたらしく、

お店の明るめの証明に髪をすかしながら、

「やっぱりそういう風に見えるんかなぁ」って笑っていた。


それから少しだけ私の家の話をした。

お兄さんは、「なんかあったら、いつでも相談しておいで」って言ってくれた。

それだけで、何も変わらない現状が、

少しだけ好転したような気になってしまいそうだった。


お会計の時、さっきの店員さんから、

また話しかけられる。

お兄さんは、せっかくなので無料音源を渡そうとしていたけれど、

車に音源乗せていなかったらしく、

また来ますねと言ってお店を出ました。

それから、駐車場で話をします。

お兄さんはみかん味の飴をくれました。

お礼を言って、ポケットの中にしまいます。

自販機だと思って、看板に駆け寄ったりもしました。

近くにコンビニがありましたが、

道を渡るのが大変そうだったので、

諦めることにしました。


外に出てから、1時間くらいたった頃、

次のスタジオの時間を確認し合って、お開きにしました。


ラーメンを食べながらした、もしもの話。

「もしさ、〇〇ちゃん(友達の名前)が、

音楽やめるって言ったらどうする?やめる?」

私の答えは、

「やめません」でした。

お兄さんはそれを聞いて、

「よかった」と返事をしていました。

その返事を聞いて、

私も、なんだか安心しました。