one room

忘れたくないことと、忘れてしまったことについて

非常口の向こうは

夢の話。

きれいなビー玉を、見殺しにした夢の話。

多分、朝の七時から、九時の間に見たんだと思う。

起きたとき、すごくおなかが減っていた。

 

非常口をみつけた。

緑色のランプ点灯中、走る人のシルエット。

走ったら危ないのに。

私は水たまりの上を歩いていて、

少しずつ、冷たくなるつま先を案じていた。

カラフルなステンドグラスが、外の光に色を付けて、

水たまりを、子どもが遊んだ色水のように光らせている。

そして、私はその上を適当なリズムで転がるビー玉を蹴った。

ビー玉の転がる速度が速くなる。

私よりも先に、非常口の向こうへ、吸い込まれていった。

誰もいなくて、潰れてしまっている椅子くらいしかないこの部屋、

なぜかキャラメルパンケーキの香り。

甘ったるい香りに誘われたように、

ばらばらに、こなごなに割れたガラスの破片が一か所に集まっている。

気持ち悪くって、でも、わたしもそれらとの違いなんかない気がして、

ビー玉にあこがれる私は、

転がっていったビー玉の後を追いかけて走って、

非常事態じゃないのだけれど、その扉を開けてみた。

扉の向こうが、非常事態だった。

怖いくらいの極彩色。

ボーリングのボールくらいの玉が、

空中をすごい勢いで飛び回っている。

たぶん、ぶつかったら私の頭なんて、ぐしゃり、とか、

そんなしょうもない潰れ方してしまうの、容易に想像できる。

ビー玉は硬いから、きっと大丈夫だと思った。

でも、ビー玉って、本当はガラスで。

散らばってた破片と変わらなかった。

 

なるほど、こちら側が、非常口の向こうだったみたい。

私は静かに扉を閉めた。

バタンという音と、パリンという音ほとんど同時に聞こえた。

 

ありがとうね、

ごめんねって、泣きたくなった。

夢なのに、ビー玉なのに。