one room

忘れたくないことと、忘れてしまったことについて

不思議なお店と窓枠の人

今日もまた反社会なおじさんのとこでバイトバイト。

ちなみに今日は六時起床です。

完全に眠たい。

真っ青なパーカーきてるけど、

寝不足が深刻な私は顔まで青くなりそう。

昨日寝たの、三時半です。

コンビニでブラックコーヒー、

二本買ってきてくれるおじさん最高です。

今日もなんとか頑張ろうと思いました。


今日は市街地のお店中心に回ります。

ぐるんぐるん。

あちこちメモ帳とボールペン持って、

おじさんの後を着いていきます。

その中で、不思議なお店を二つ見つけました。


一つ目は、完全に息をしていない、

空っぽのがらんどうアーケード街の入口から、

少しだけ横に入った所の三軒目のお店。

寂しげなアーケード街は、

かつての雑多な雰囲気を含んだまま、

透明な天井からは青空が透けて見えてたし、

秋の少し冷たい風で、

文字が見えなくなったのぼりをはためかせていたりした。

それを見ながら、私は、

なぜだか、すごく純粋だ、って思った。

おじさんが煙草すってる間、

ふらふらこっそり歩き回ってみたら、

隅っこにある煙草屋さんだけ営業中だった。

試しに、コンビニとかにない銘柄を頼んでみる。

あった。

さすが、品揃えはしっかりしてる…。

少しだけ嬉しかった。

一つだけしか買わなかったの、後悔する。

でも、引き返すの恥ずかしいから、

来月またここに来る時、買おうかな。

チョコレート味の強い煙まといながら、

おじさんの所に帰る。

途中で、とっても痩せてるお兄さんとすれ違う。

髪が、苔むしたような緑だった。

湿った暗いところにでもいたのかな。

ここは、少しだけ気持ちいい場所だから、

苔、取れるといいね、って思う。

この場所で息をしてるの、私とおじさんと、

さっきのお兄さんと、

煙草屋さんのお爺さんだけかな…って思ってたら、

昔、きっと真っ白だったような気がするビルの二階から、

すごく疲れた目をしたお姉さんがこちらを見てた。

びっくりして、じーっと見つめ返してしまった。

そしたら、お姉さんもじーっと見てきたので、

二人で、なんとなく見つめ合ってた。

私は特に何も考えてなくて、

きっとお姉さんもそうだと思った。

そのうちおじさんに呼ばれたので、

走って帰った。

なんだかドキドキした。

急に走ったからかもしれないけれど。


おじさんのとこ行ったら、

「あ、お前変な味のする煙草吸ったろ」

って顔しかめられてしまった。

ちなみにこのおじさんはマルメンの14mg。

「チョコレート、いいじゃないですかー

って言ったら、

「お子様は本物のチョコ食べてろ」って言われた。

容赦ないなあ。

そのまま用事のあるお店へ行く。

ポストから溢れてる郵便物掻き出して、

お店の鍵を見つけて中に入った、

作業中はおじさんの邪魔しないようにしながら、

ぐるりと店内を見回した。

カウンターの上には、夜の様子が伺える、

空になった酒瓶の山。

それが照らされてて下品にぎらぎらと光る。

つけっぱなしにされてる電気も、

蜘蛛みたいなシャンデリア。

人がいない時なんか、天井をはい回っていそう。

カウンターの向こうのお酒の棚には、

もはや何語か分からない文字が溢れるお酒の瓶。

銘柄じゃなくて、色で並べてあるみたいで、

茶色から白から緑みたいなグラデーション。

たまに差し色の赤。

まばらに散らばっているみたい。

壁はどこの誰が見つけてくるのか分からない、

極彩色やらモノクロやらアニメや映画やら、

とにかくわけがわからないポスターだらけ。

一番古いの、旧字が使われてたし。

左右逆だし。

床には割れてるグラスとか、

なんだか触れない方が良さそうな、

小さなカラフルな空の袋とか散らばってる。

誰が書いたのかわかんないけど、

よく分からない人たちの、

怪しそうなライブのお知らせの裏に、

大きな文字で「どうしたらいいの?」って落書き。

泣いてる顔文字付きだった。

「あー、私にもわからないよ。」

落書きに向かって呟いてみる。

隅っこの方には、小さく、

「携帯止められたくないなー」って書いてある。

「じゃあこんな所でお酒飲んでちゃ駄目だろ」

って返事してみた。

その一瞬だけ、昨日の夜と時間が繋がった気がした。

ピンクやら、赤やら、なんだかアメーバかな?

みたい椅子があちこちにあったけど、

へんてこな形過ぎて、私には座れなかった。

奇抜すぎる何かは、人を近づけないみたい。

店内をそんな感じでうろうろしてたら、

作業終えたおじさんに呼ばれる。

お昼ご飯はお寿司だそうです。

喜んで走っていきます。


不思議なお店、二つ目は、

昼寝をした後に連れていかれました。

そのお店は、

神社の近くにあるのですが、

その神社の周りは、戦後、困ってた人たちが、

それぞれ飲み屋さん開いたりしていたらしいのですが、

その中に、少しだけ悪い人たちが混ざっていたようで、

神社の周りにも関わらず、

いかがわしいお店の怪しい看板とか、

良識ある大人が、

子供の目を手で隠すような文字や絵が、

大小様々な看板上、

丁寧なことに漢字にはルビ付きで踊っています。

少しずつ取り壊されたりして、いるけど。

今でも十分虫食い状態な戦後のドサクサに、

紛れ込んだ怪しさが漂っています。

用事のあるお店は、

その中にある、小さな映画館の横にありました。

そして、到着するなり、おじさんは、

「ここ、いつもみたいにふらふらしてたら迷うよ。

迷ってたら、ほんとに危ない人に連れてかれるからね」

って怖い顔して言います。

私は、少しだけ背を伸ばして、

「はいっ!」って返事をしました。

すごく怖いので、あんまりうろうろしない事にします。

真っ白な、小さな建物。

迷うほど、広くないみたいですが、

高さは4階まである上、窓ほとんどないので、

迷ってしまったら大変そうでした。

ちなみに、今日は行かなかったけれど、

地下もあるらしいです。

中に入ると、真っ暗で、

おじさんの懐中電灯以外の光がありません。

数少ない窓も、

理由は考えませんが目張りされています。

光が照らす先は、大量のお酒だったり、

キラキラとかヒラヒラしてる、

目に痛いような洋服が落ちていたりしました。

テーブルの上に、私の好きなお菓子屋さんの箱、

三つ置いてあるの、見つけて、気になったけど、

すぐに暗闇に戻っていってしまいます。

私は、ロールケーキとモンブランがお気に入りですが、

あの箱の持ち主は何を選んだのでしょう。


私はそんな感じで、

屋上まで連れていかれます。

そして、そこで待機を命じられました。

置き土産に微糖の缶コーヒーをくれました。

仕方が無いので、

大きなタンクを風避けと背もたれにして座り込みます。

疲れていた私は微糖より加糖を下さい…

って思いましたが、目の前にあるのは微糖なので、

それを飲むことにします。

ポケットにチロルチョコあるので食べます。

本物のチョコレートも美味しいです。

隣の寂れたゲームセンターを見下ろしてみます。

人が店員さん以外誰もいなくても、

たくさんの機械が大きな音を立てていて、

ジャラジャラピコピコ聞こえてきます。

コーヒー、美味しかったので、

缶捨てちゃう前に、名前、メモしました。

このメモさえなくさなければ、

明日も美味しいコーヒーが飲めます。

屋上、誰もいないのでごろんと横になってみます。

目を開けると空しか見えません。

ぼーっとしばらくしていると、

平衡感覚がぐずぐずと壊れていって、

飛んでいってるような、

浮かんでいるような、

心許ない、

何かにしがみつきたくなる衝動がやってきます。

私は、小さい頃からこの感覚が怖くて、

でもたまに恋しくなります。

今日もしばらくすると怖くなって、

あぁ、もう駄目だ、起き上がろって思います。

でも、その時丁度大きく風が吹いたのです。

私はまるでるき飛ばされてしまったような、

そんな錯覚にさらされます。

あのゲームセンターあたりに落っこちるのかな、

とか想像しています。

風がやんでしまって、

実際は飛んでいないこと、すぐに分かって、

今度こそ起き上がって背伸びしました。

いつの間にか帰ってきているおじさんと目が合います。


もうそろそろ今日のバイトも終わりの時間です。

タイムカード替わりのLINE送信して、

おつかれ様ですと言いました。


もうそろそろ日没。

人けがなかった場所にも明かりが灯って、

お店に負けず劣らず、

怪しげな人たちがやってきそうです。

私もいつか、営業中のお店に行ってみたいです。

そんな勇気、いつになれば、湧いてくるのか。

ポケットにはチョコレート味の煙草が一箱。

今日の私があの場所を見つけた証明。

これを吸いながらなら、

たどり着けるような、そんな気がします。