one room

忘れたくないことと、忘れてしまったことについて

爪の重さ分傾いた世界

爪が伸びていました。

ほうっておいても、いつのまにやら伸びてしまう。
バイト先の女の子たちはみんな、
伸ばした爪に思い思いの色をのせて、
なにやら可愛がっていますが、
私は右手の親指と中指と薬指と小指しか伸ばせません。
ギターが弾きにくくなってしまうのです。

なにより、今日また爪を切っているのも、
「左手の爪伸びてるじゃん、だめー」
って言われてしまったからなのです。
ぱちんぱちんと白い部分を切り落としていきます。
短くなる爪に、少し心もとないような感じがします。
右手の人差し指は弦で削れてもとから短かったので、
切らずとも短くなるので楽です。
今日はなんとなく、右手は放っておきました。
切るはずの人差し指も伸びていないし。

左右でちぐはぐになった爪が面白いので、
しばらくぐーぱーしたりして遊びます。
すると丁度、ぱーにした時、
窓から吹き込んできた風が指の間を潜っていきました。
人は、左右のバランスが崩れると大変だと聞きますが、
爪くらいなら多分大丈夫です。

左右のバランスを崩した私は、
どうしようもない秘密かかえたまま、
何事もないみたいに、明日もきっと笑います。
ちゃんと笑えるかなって、少し不安に思っていたら、
「馬鹿なんじゃないかって思った」
って言われたの思い出しました。
「ちゃんと自覚してるので、大丈夫ですよー」
って笑ったけど、どうなんだろう。
よくわからない。
会う度に馬鹿だと言われるけれど、
それを聞くたびに、
安心している自分をたまに見つけて驚く。

片手の爪の重さ分傾いた私は、
少し斜めになりながら、歩きました。
まるで世界が少し、右に傾いてしまったみたいです。