one room

忘れたくないことと、忘れてしまったことについて

ドアが開かない日

今日は水曜日。

スタジオでギターのお兄さんと練習の日。

朝から友だちと会って、

お昼過ぎにスタジオに着きます。


今日は二人とも、

お揃いのようなパーカー着てます。

風が強いので、フードを二つ、

並んでパタパタさせながら、

ギターとベースをかついで行きました。

お兄さんが来たとき、風がいっそう強くなって、

長い髪がぶわりと宙に広がります。

赤色と黒色がぶわぶわと揺らめいて、

お兄さんは魔界から来た人のようでした。

魔界の住人になっているお兄さんが可笑しくて、

友だちと二人でたくさん笑いました。

お兄さんも「これはやばいな」って言いながら、

困ったみたいに笑ってました。

近くの自動販売機では、

お年寄りが元気にコーラとか買ってて、

間の抜けた空気が漂います。

私たちは三人になって、

そんな空気の中を泳いでいます。


スタジオは小さなビルの三階にあります。

地下はライブハウスになっていて、

二階はチケット売り場です。

エレベーターなんて無いので、

重たい楽器を持って、

古びた階段を三階まで上がります。

三人分の足音かカンカンと乾いた音を立てています。

足が疲れてきた頃、三階に着きました。

いつもなら、カランカランってベルのなるドアが、

今日は静かです。

どうしたんだろうと思って、

先頭のお兄さんを伺うと、

「開いてない」と言います。

理由は全くわかりませんが、

なにやら人がおらず、開いていないようでした。


私たちは少し困って、

でも、まあいいやってことで、

階段のスペースで練習することにしました。

今日は寒いくらいで、風もあるし、

外で練習するのも楽しかったです。


練習中、お兄さんに、

「もう、ギターの弦、だいぶ錆とーやん」

って言われます。

確かに私のギターは、

弦を交換しなければいけない時期なのですが、

買った時、好きな人に張ってもらったから、

切れるまでは張り替えたくないなぁって、

もう少し頑張ることにしていました。

まだ、もう少し、きっと大丈夫です。


結局私たちは、のんびり外にいました。

二時間くらい外で弾いていたら、

そのうちスタジオの人がふらっとやってきて、

ドアを開けてくれました。

カランカランって、やっとベルがなります。


練習が終わってから、

二人でスーパーに行きました。

そして、髪の色を変えることになりました。

友だちがカラー剤を私の分まで買ってくれて、

私の髪は、まだらから脱出したみたいです。

明日、ちゃんとお礼を言おうと思いました。

風は未だに強くて、

ほんのりカラー剤の香りが残る私の髪を、

ばたばたと掻き回します。

風が強い日は、なんだか不安になってしまうので、

少し困ります。