one room

忘れたくないことと、忘れてしまったことについて

タイムマシーンの話

朝起きてすぐ、
嫌な予感がするので気休めにレキソタンを飲みました。
毛布を頭までかぶっていたせいか、少し暑い。
一階に降りて、水を飲もうと思います。

蛇口を捻ると、絶え間なく水が流れ出る。
溺れそうになるくらい、ずっと飲んでた。
少し行儀の悪い飲み方をしたので、
ひんやり冷たい水が私の髪まで濡らす。
濡れた髪は頬に張り付いて気持ち悪い。
そろそろ息がしたいと思い、
蛇口から口を離す。
酸素を吸った。
リビングは、父親が吸う安っぽい煙草の匂いする。
なおも流れ続ける水は、
たえまなく騒がしい音を立てる。
光を反射していて綺麗だったので、
しばらくそのまま見ていました。
ぼーっとしていて、
ああ、水道代と思いつくまでに、
少し時間がかかりました。

お昼からしか用事はないのに、
思いのほか早く起きてしまった私は、
ベッドに寝っ転がったまま、
暇つぶしにタイムマシーンについて考えたりしていた。
人が過去に戻ることを望むとき、
その時間で一体何をしようとしているのだろう。
ひとしきり考えてみて、
私が思いついたのは三つ。

一つは、会いたい人がいるから
二つは、今を変えたいから
三つは、旅行として。

おそらくだけれど、理由は大体、
みんなこの三つのうち、
いずれかなんじゃないかな、と思った。

一つ目や二つ目については想像しても悲しくなるので、
私はひとまず、
三つ目について考えて暇つぶしをしようと思います。
私には、その時間を見てみたいと、
願ってやまない時間があります。
世紀末と、みんなの期待をよそに、
全然なんともなく拍子抜けしていたらしい、
千年代最後の年。
地球誕生や、見たこともない恐竜がありふれた時代、
大きな歴史的転換点、
自分が生まれたときなんかも、
気になる人は多いのかもしれません。
私にも、気になる瞬間はあるけれど、
二年くらい滞在していたい時間はあのあたりです。
正確には、わざわざタイムマシーンに乗らなくても、
実は私はもう生まれていたのですが、
幼かったせいで、あまり覚えていないのです。

考えていたらお昼のチャイムが聞こえてきたりして、
キッチンへ行ってパスタの麺を茹でました。
食べたらお腹が痛くなって悔しくなります。
もうご飯食べたくない、とか思ってみます。
でもきっと、お腹が減ったら食べます。

友だちがお仕事で遅くなるみたいなので、
約束していた時間ぴったりに家を出ます。

それから、
二人で髪をきりに出かけました。
二時間半ほどで美容室を出ると、
今度はスーパーへ行きました。
道中、信号待ちの間に、
少し友だちにいたずらをしたら、
結構本気で仕返しがきたので、大変な目にあいました。
スーパーにつくと、丁度夕飯の買い物をする人で、
お店はとても賑わっていました。
そこで友だちは、お寿司とか、
イカの天ぷらとか、オレンジジュースとかを買います。
お寿司を買う時、私が、
サーモンのことを鮭と言ったら怒られました。
お店を出て、
友だちから半分分けてもらったお寿司とか食べました。
サーモン、美味しかったです。

それからしばらく話してさよならしました。
次に会うのは日曜日です。
誰にも会えない日は、
さみしいので嫌いです。
はやくお仕事で埋めて、
何も考えなくていいようにしたい。

家に帰る途中、近所のおばさんに会った。
「こんばんわ」って言ってもらえて嬉しかったけど、
この間救急車よんだことで、
色々言われてるの知ってる。
私が良くない仕事をしてるみたいなこと、
言いふらしたのも知ってる。
それでもちゃんと、嬉しくなってしまって、
「こんばんわ」って言った。
悲しすぎること、知りたくない。

タイムマシーンで旅行したい。
好きな人と、友だちが一緒ならいいな。
みんなが世界が終わると思っている時間に行きたい。
期待はずれに終わって、欠伸の出そうな季節も見たい。

でも、もし、
誰かに会いに行くなら、誰なんだろう。
祖母と後輩さんが出てきて、
二人は同じ時間にいないので、難しいなと思った。

今を変えるのは大変そうだから、
多分しない。
そこまで酷くないし、
酷いことはどうしようもないものばかりだから。

日曜日、好きな人がお店にこないかな、
とか考えながら寝る。
きっと来ない気がするけど。
少しだけ、期待してみる。