one room

忘れたくないことと、忘れてしまったことについて

二月は東京

今日はギターのお兄さんと練習の日です。

朝から少しずつ練習をして家を出ます。

一週間ぶりのギグバッグの重たさです。

七年のタイムカプセルみたいな、

梅酒のビンから梅だけ取り出して食べます。

甘い。

少し元気が出てきます。


予定の一時間前。

市内のスタジオまで、きっと余裕で到着できます。

途中、お兄さんからの着信。

慌てて電話を取りました。

「もしかして、今日忘れとー?」

「忘れてないですよー!三時前には着きますっ!」

「あれっ?二時やと思っとったきー」

「…????!?!!!?」

大混乱です。

頭の中で再現性のないバグが次々にはじけます。

もう二時を過ぎています。

どう考えても二時半にしか到着できそうにありません。

一生懸命謝って、友だちにも知らせます。


そして二時半、二人でお兄さんに謝りました。

お兄さんは笑いながら許してくれました。

今日のお兄さんの横には、

先日のライブで見た、真っ黒のV字が、

すごい存在感を発しています。

スタジオの冷たいクーラーに感謝しながら、

ドアを閉めました。

三人がバラバラにチューニングを始めます。

お兄さんの恰好いいギターの音。

友だちの静かなベースの音。

まだまだへなちょこの私のギターの音。

混じりあって、少し楽しくなります。

練習中は、二十回呆れられて、

二回だけ、ピッキングを褒めてもらいました。

手がとても小さい上に、握力もないので、

ダブルチョーキングに泣く私を、

お兄さんが笑います。

来週までにはどうにかしようと決意します。

「そんなんじゃ、

好きな人に振り向いてもらえないぞー」

お兄さんに追い打ちをかけられます。

私は好きな人と、約束をしています。

私がライブをする時は、絶対に見に行く。

そう言ってくれたのです。

頑張らなければいけません。

必死にネックを握りこんで力を入れます。

しばらくして、休憩モードに入ります。

お兄さんは、長袖を着ている私に向かって、

「それってやっぱ、切りよーと?」

と聞いています。

真夏も長袖ばかりですが、

やはりバレてしまいました。

何事も、隠し通すのは難しいようです。

適当に答える相手ではなかったので、

頑張って、考えながら答えました。

それを聞いたお兄さんは、

「メンヘラやん」って笑います。

お兄さんの笑い方は嫌じゃなかったので私も、

「そんなことないですよー」って笑いました。

このお兄さん、私の好きな人と仲が良いからか、

言うことがたまに、驚くくらい似ていたりして、

とても面白い感じです。


練習終わりの時間が近づいて、

何故かLINEやTwitterでしか話せない、

金髪のお兄さんがやってきました。

タバコの煙もくもくと燻らせながら、

時間を潰しているようでした。

「Bスタ、もう出るので、よければ、準備どうぞ」

と伝えます。

大きなアンプと新しいギターを持っていました。

夜から、もう一人の金髪のお兄さんと、

二人で遊びでスタジオに入るそうです。

金色の人が二人並んでいると、

きっととても目立つなぁと、想像しました。


練習帰りに、私たちはマンガ倉庫へ行きました。

ミントグリーンと、ピンク。

ギターとベースが並んでいます。

とても可愛くて、八千円。

弦はサビサビですが、交換すれば問題ありません。

少し悩んでしまいましたが、

チューナーもシールドもエフェクターも必要。

なんとか我慢しました。

でも、可愛かったので写真だけ取りました。

いつか、買えたらいいなぁ。

CDコーナーでは、友だちが、

「ふ」の列でBLUE ENCOUNTを探していました。

見つからないので諦めて帰りました。

私も好きなので、少しがっかりです。


がっかりした二人はお腹が空いていたので、

コーヒー屋さんに行き、

それぞれキャラメルモカとココア、

チョコレートのスコーンを食べました。

甘くて、のんびりした気持ちになりました。


九時頃からは、友だちの家の前でお喋りしました。

二月になったら、

二人で東京へ遊びに行こうと話しました。

遠くへ、見たこともないけれど、

よく知っているような場所へ。

楽しみです。


東京へ逃げたい人。

東京から逃げたい人。


あの場所は、すこし怖いような気がします。

でも、二人ならきっと大丈夫です。