後日談
前夜
So never say good bye and kiss me once again
あたしは絶対あなたの前じゃ
さめざめ泣いたりしないでしょ
これはつまり常に自分が
アナーキーなあなたに似合う為
現代のシド・ヴィシャスに
手錠かけられるのは只あたしだけ
行かないでね
何処にだってあたしと一緒じゃなきゃ厭よ
あなたしか見て無いのよ
今すぐに此処でキスして
違う制服の女子高生を
眼で追っているの 知ってるのよ
斜め後ろ頭ら辺に痛い程視線感じないかしら
そりゃ あたしは綺麗とか美人な
タイプではないけれどこっち向いて
行かないでね
どんな時もあたしの思想を見抜いてよ
あなたの長い睫毛も其の華奢で大きな手も
全部大好きなの
何処にだってあなた程のひとなんて居ないよ
あなたしか見て無いのよ
今すぐに此処でキスして
行かないでね
何処にだってあたしと一緒じゃなきゃ厭よ
あなたしか見て無いのよ
今すぐに此処でキスして ねぇ
I feel so nice 'cause you are with me now
It is certain Ilove you so much baby
I'll never be able to give up on you
So never say good bye and kiss me once again
woo… ai ai ai…
1時間半
お兄さんは、コンビニやスーパーへ寄ると、
「なんでも好きなの持っておいで」って言う。
だから私は帰りの車の中で、
ほうじ茶チョコと、抹茶のポッキー、代わる代わる食べていた。
帰るまで1時間半くらいかかるし、そのお供にと、お菓子が二つ。
何となく、Paul Smithのセットアップの話を思い出しながら家へ戻る。
四月には出番が来るらしい。
ちょうど県の境目に着いた頃、
降っていた雪の勢いが増してきた。
人からものを借りるのがとても苦手で、
お兄さんが上着貸すと言ってくださったのに、断ってしまったのを後悔した。
優しさすらうまく受け取れないのか、私は。
家に着く頃には、すっかり真っ白になっていて、私は車から下りると、
小さな雪だるまを作った。
朝一番に溶けるように、日の当たる場所に置いた。
花束を贈る人は、それを贈られた人が、どんな気持ちで花々を看取るのか知らない。
それに似た感じで、溶けかけの雪だるまが苦手だ。
私が目覚めるより先に、水になって、乾いて、空気中に浮かんでいてほしい。
朝の光と
ランディー・ローズが、お兄さんのiPadから流れていた。
テーブルの上に並ぶ空の缶ビールは何本になっただろう。
カーテンの隙間から仄かに薄くなるブルーが覗いた。
ギターケースの上で、小さな紙の切れ端に、注意点が書き込まれていく。
和紙のような質感。
お兄さんの持つペンからインクが染み込む。
私はポッキーを食べ、お酒を飲んでを繰り返していた。
とても眠たくて、
それでも、まだ寝ずにいたいという子供のような意地だけで起きていた。
私もお兄さんもまぶたが重たい。
それでも、ふらりと立ち上がると、
お兄さんの手には、また、缶ビールがあった。
グラスに半分ずつ注いで、飲む。
眠たいのか、酔っているのか、
世界はとても朦朧としていて、少しだけ死んでいるみたいに穏やかだった。