one room

忘れたくないことと、忘れてしまったことについて

その差、60cmに

地元のバンドの先輩に誘われ、ライブへ。
フロアから、ステージまで。
それが、月日なのか、運なのか、努力なのか、思い、なのか。
私には分からなかったけれど、
泣いてしまった。
悔しさとかじゃなく、純粋に、演奏に圧倒されて。
マイクスタンド倒してしまうほどにギターを振り回し、
フロアに向かってスティックを投げた。
投げられたスティックは、
知り合いめがけて放物線を描き、
「スティック痛いぞー!」と、
野次になって返っている。

泣きながら私は、
どうしてもあの場所を諦められないな、と思った。

何バンドか見たあと、先輩が話しかけて下さって、
成人おめでとうとか、髪切ったんだねとか、
二三言交わした。

ライブハウスから出ると、
駅前の道をなんとなく歩いて、駅までついた。
なんとなく振り返った時に見た、
背の高いマンション郡の明かりに、
先輩たちのバンドの、本当の幸せとは?みたいなMCが頭をよぎった。
そのうち駅に着いてしまったので、
なんとなしに構内の喫茶店へ入った。
甘そうなケーキと、ホットコーヒーを頼んだ。
今それを飲んだり食べたりしながら、
これを書いている。

私は、一人でお店に入り、注文が滞りなくできるようになったのが、最近のことなので、
それが嬉しくて、ついつい外食してしまう。

今まで、人前でメニューを見て、決定して、伝えることができなかった。
締め切られた狭い空間に、自分で扉を開けて入っていくことができなかった。

良かった、なんとか社会の中でやっていけるぞと、私は1人で喜んでいる。
携帯代の支払いが、未だに出来ていない(お金は準備できるのに、何故か億劫になってしまい終わっていない)ことは、棚に上げて。

コーヒーがまず空になった。
甘いケーキもそろそろ無くなる。
私はもう暫くここにいたいような気がして、
少しだけゆっくりと、フォークを動かしている。

装苑

クリサンセマムのリング、
鈴蘭のピアス、
友だちがくれたダイアモンドのネックレス、
ブラックワンピースに、
レースアップのハイヒール。

私のことを守っていてください。
冷たくて綺麗なものは、
護身用の特別仕様。

真っ白のBABY-Gの腕時計、
真っ黒のパーカー、
Vivienne Westwoodのピアス、
ドクターマーチンのブーツは、
どこへでも行けるような気がする。

私の携帯のYouTubeを開いて、
椎名林檎の、自由への道連れを流しながら、
「いいね、自由って言葉好きだ」と言ったその人は、
缶ビール片手に、穏やかそうに笑う。
私にコンビニで好きなもの買うといいと言って、
1000円渡してくれたけれど、
不自由な私は色んなことを悩んで、

その人は私に、椎名林檎のイメージがあるとか、
わりと無茶苦茶なことを言い、
それなら、椎名林檎の真似事のようなバンドを組んでみればいいと勧めた。
歌に自信が無いと言うと、
今度カラオケに行こうと言われた。

この人がいなければ、
私はどうやってギターを弾けばいいのか分からなくなりそうだと思い、少し不安になる。

ピアスが夜風に揺れれば、
友だちからの着信が入っていた。

部屋に戻り、
着信履歴からかけ直す。

もっとさらっとした、しんとした人になりたい。
アミノ酸とビタミン Cのサプリが入ったボトルが、コロコロと部屋の隅に転がって消えた。

1年の始まりの夜に

行き交う人。
賑やかな屋台。
寒くはなかった、あちこちから湯気。
笑う人々の口元も白く霞んでいる。
忙しそうな巫女さんたち。
どこかのテレビ局のカメラ。
隣で、彼氏の愚痴をこぼす友だち。
全てが愛おしくて、
全てが今にも無くなってしまいそうで、
私はしゃがみこんでしまいそうになる。
蹲って、きらきら光るこの光景から、
目を逸らしそうになる。
それでも、私はここに立っていた。
お参りをして、おみくじを引いて、
無愛想なお兄さんが焼く焼き鳥を食べたり、
お茶を飲んだり、お餅を食べたりした。

ここから始まるのだと思った。
友だちが、焼き鳥を二本同時に食べているのを見ながら、
泣きそうになった。
遠くへ行かないでほしい。
それだけをずっと願っていた。

2人でお守りを買った。
私たちのことを、どうか守って。

始まったばかりの今年が、既に愛おしくて仕方がない。

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共感につき

最近あまりに傷つくので、

共感することを、初めは無意識的に、最後には意識して、サボっていた。

いつだって人との関わりで悩んでいたし、

ずっと苦しかったから。

人に意識を向けず、自分と一人遊びに興じた。


そんな時、ギターのお兄さんが、

「今日、練習のあと、うちで飲み会しよう」と言った。

それはそれは楽しい飲み会だった。

車に乗せてもらい、少し遠くの、お兄さんの家まで向かった。

車の中での話は、結婚や、バンドや、共通の知り合いの話。

とめどなく話して、頷いて、笑った。

途中でドンキに寄り、アサヒスーパードライ350ml缶6本パック、

お兄さん曰く、飲みやすいらしいスパークリングワイン大きいの1本、

それから、私用に、お菓子を買う。

お兄さんは目立つ。とにかく目立つ。

深夜のドンキの来客の面々は、それぞれに皆派手ではあったけれど、

群を抜いて目立つので、一緒にいるとても平凡な二十歳の小娘まで目立ってしまい、

人の視線に慣れていない私は、

こんな視線の中で生きているお兄さんは凄いなぁと、素直に思った。

聞いてみたら、慣れだという。

セブンイレブンにも寄って、そこでおでんと、あと、生ハムを買った。

完全な飲み会。

欠けたものはほぼ無いくらいに最高だった。

ワイングラスにビールを注いだ。

注ぎ方も教えてもらった。

TVではタレントが何人か座って話しており、

この人は綺麗だ、いや、そうでもない、などと、二人で勝手に話し合ったりした。

それから、結婚式の招待状の、返事の書き方をその場で教えてもらった。

親がしてくれないこと、こうやって周りの人が助けてくれるから、

私はなんとかやっていけるのだなぁと思う。

それも終わるとギターを調節して貰った。

そして、弾いてもらったり、弾いたりしながらだらだらとお酒を飲んだ、

途中いろんな話をした。

家庭の話とか、昔の話とか、新しい冷蔵庫や、喋る空気清浄機の話。

お兄さんも私もお酒に酔い潰れることなく、

朝の9時を過ぎた。

流石に眠くなっていた私は、あっという間にそれを見透かされ、お風呂を借りて、

パジャマまで借りて、でも、ソファの上で寝るのは忍びなくて、

お兄さんが寝室へ行ったあと、

床で丸まって寝た。


しばらくすると、お兄さんがこっちに来る音が聞こえて、

半分寝てる状態で、なんとなく起きずにいた。

私の近くに来たお兄さんが、

「ソファー使っていいって言ったのに…」って言ってるのはなんとなく聞こえていた。

ふわりと掛けられたそれは温かくて、心地よく眠れた。

家のベットなんかより、数倍。


次の日というか、数時間後、

私はバイトに向かうため、目を覚ました。

ぼんやりする頭で、

とりあえず着替えて、少しだけ片付けて、

お兄さんに声をかけた。

お兄さんはすぐに起きて、

車で私を駅まで送って、傘まで貸して下さった。

お礼と、良いお年をと並べて、お別れしました。


その日から、揺らいだ。

今まで共感せず、他人に心を左右されずに居たから、

その反動は酷かった。

あれだけ楽しいことの後なのに、

むしろ、楽しかったからこそ。


毎日急に死にたくなり、ギリギリのところで息をしていた。

全く関係の無い人たちの、言葉でも、

少し攻撃的なことが聞こえると、

言い知れぬ恐ろしさが拭えなかった。


人と関わることの楽しさを実感しても、

人の優しさを感じても、

前みたいにまた傷つくことが怖かった。

小学生の頃、感受性が強いなどと、

連絡帳に書かれていただけはあった。

要は、傷つきやすかったし、

なぜか傷つけられやすかった。

ずっと、ハリネズミのジレンマのようで、

私は、果てしないほどに臆病だった。


家を飛び出して死のうとした。

お兄さんから、結婚式の二次会の連絡が来て、返信考えてるうちに寒くなって、

気づけば私はパーカーにスキニーだけだったりして、

それは寒いに決まってるし、

もうどこにも行けなくなって家に帰ったりした。


限界まで寝たり、

全然寝なかったり、

お菓子しか食べていなかったりで、もう集中力はバイトにも差し障るレベルだった。

顔色もそうとう悪かったらしい。

そんな私を見かねた友人は、

遊びに連れ出してくれた。


友人おすすめのワッフル屋さんへ行き、

美味しいパスタとワッフルを食べた。

服屋へ行くと、友人は、いろんな服を似合うね、

それも可愛いねと声をかけてくれた。

どれだけ周りに恵まれているのか分からない。

助けられすぎなくらい、私は人に支えられていた。

そんな人が、1人で完結していようとして、

それでまるで強くなったように思っていたのが間違いだと気づいた。


年の終りは、何だか全てを精算させられてるような気分になる。

間違って、間違いに気付かされ、連れ戻してもらった。そんな感じ。

優しくて真っ直ぐな、お兄さんと友だちに、良い年が来ますように。


買い物の途中で買ったスケジュール帳。

来年、このノートを使い切ること、

一年生き抜くこと。



相違する夢

私は下着だけの格好で、
ストーブの前に三角座りをしていた。
近くのテレビで紅白が映されていて、
好きな人は私の隣にやって来ると、
みかんを食べながら、
「あ、SMAPだね」と呟いた。
「そうですね」と返事をした。
笑顔で歌い、踊る彼らを見ながら、
私たちは何故か安心して、くすくすと笑っていた。
それから、安っぽいラブホテルの、
原色そのまま使って染めたようなクッションを抱え込んだまま、
みかんでお手玉をした。
途中で全部落として、二人で食べた。

そんな夢を見た。
夢の中のSMAPは、きっと解散しないんだろうなと、
起きた時になんとなく思った。
みかんは現実にもあったので、
一つ取って食べた。
あの夢の中に漂っていた、
生温い安心感のようなものは、探しても見つからなかった。

緩やかな

「もうすぐ今年が終わるね」と、

ギターを丁寧に柔らかい布で磨きながら、

お兄さんは言った。

12月19日の、午後10時のこと。

私は寒くて、セーターにコートを着ていたのだけれど、

薄い長袖一枚のお兄さんは、季節外れにも、

暑いなぁと呟いた。


私の部屋に、ずっと暖房器具がなくて、

最近やっと買った話をした。

「相当嫌われとったんやね、」と言われて、

何かを突きつけられた気がして、

逃げ場を失った。

返す言葉が見つからないので笑った、

なにかに気づいたように、

お兄さんは練習曲の話題に変えた。


ドラムのお兄さんとのスタジオを、

見学させてもらった。

オリジナルの曲を一緒に煮詰めてもらったりして、

どんどんかっこよくなっていく過程は、

ちょっと魔法みたいだった。


帰り際、明日バイトが早いから、

今日ご飯行けないと、謝られた。

そんな約束していなかったし、

謝られるなんて思ってもなくて驚いた。

でも、ご飯行きたかったなぁと、

少しだけ残念に思った。


教えてもらったフレーズ繰り返しながら、

適当なお菓子を食べた。

甘いものばかり食べてしまう。

痛み止め

桜を見上げる春が過ぎて、

雨を睨む梅雨を明けて、

花火を見あげた夏が終わり、

雪を望む冬になった。


季節は巡り、

お気に入りのもの達は、

少しずつくたびれていく。

体重は何故か10キロも減った。

安定剤も眠剤も、

もう多分使うことは無いんだと思ってる。


一年前の春の日、

あなたの言っていたことが分かった。

いつか、誰かに恋をして、

その時、昨日のことを思い出して、

怖くなったりしませんようにと。

そう言って、一晩中車の中で話をしてくれた。

音楽を教えてくれた。

綺麗な場所で、もう大丈夫だよと言ってくれた。

全部嘘でも、全部宝物だった。

魔法にかけられただけの、がらくただとしても、

そこに少しは優しさがあったと信じて。


今日ふと、あの日のことを思い出した。

偏頭痛が酷くて、痛み止め飲みに行く途中。


許されたい。

こんな自分でも、どうか。