one room

忘れたくないことと、忘れてしまったことについて

留まる

白い腕時計を買った。

遠くに移り住んだ友だちと、

久々の電話だった。

友だちに、肌の色が白いから、

白色の物が似合って良いねと言われた。

大学までの道のりを、毎日自転車で通っているという友だちは、

Twitterに載せていた写真の中で、

一際目立って健康的な肌色をしていた。


そんなことを思い出していたら、

私のような日焼けをする機会が無い人間に、果たして腕時計は必要なのか心配になってしまった。


人に見せられなかった腕も、

最近、少しずつ綺麗になってきた。

もう確か最後に傷つけた日を思い出せない。

来年の夏には、人前で半袖を着れるかもしれなかった。

最近の私は、生活は相変わらず無茶苦茶だけれど、

それでも自分に優しくなれたような気がする。

しばらく前に、心も体もお金に変えてしまおうと思った時、

もう、さて踏み出そうという日の前々日、ギター練習の後に、お兄さんと朝まで雑談していたら、

それがなんだかとても楽しくて、

やっぱり止めておこうという気分に不思議となった。

自暴自棄だったところにブレーキがかかった。

今までなら、飛び越えてしまっていたと思う。

今は、引き留めてくれる人がいて、それに自分が気づいている。


飛び越えなかったから、

ここにいられる。

よかったと、思う。


明日は、修学旅行を欠席したため、

北海道を知らない私が、

北海道名物のご飯を食べにいきます。

海鮮丼、味噌ラーメン、チョコレート。


戸惑いへ

誰か知りませんか?

夜明け前、夜ふかしの後、

うっかりしていたうたた寝から覚めた人、

車のドアを開いて、

ひんやりとした空気に驚きつつ、

しんとした空の紺色を、胸いっぱいに満たす時。

ふと息をつき、車の中には、

隣心地よい人が寝息を立てていて、

今登ろうという朝日に少し目を険しくしかめている。

首元に揺れるのは、

大切な人からの贈り物。

人生の四分の一を一緒に過ごしている。

今頃どこで何をしているのだろう。

登り始めの太陽か、眩みかけの月にきらりと光った。


好きな人とドライブした日、

ギターのお兄さんと一晩中話して夜を明かした日、

友だちと外で楽器の練習していた日、

私の中にはたくさんの夜があって、

昼間より眩しかったりする。



慈しむ

すっかり昼と夜が溶けてきた。

ねぇ、素足で駆けていたあの頃は、

もう少し壊れていた気がする。


お兄さんに言われたこと、

騙されたと思って信じてみている。

生きていくことに、必死。


携帯代の支払い、ことごとく忘れているけど、

美容室の予約は忘れなかったりする。


ご飯をしばらくほっといて、

ギター掻き鳴らしたり。


私の日常は、他人から見たら、

眉をひそめられてしまうけれど、

私はこれを愛おしいと思うよ。


思い出した時、微笑めるものになっている気がする。


両足首にできた痣、寝ている時、自分の足の爪で抉っていたのが原因だった。

今辛いのも、

もしかして自分のせい。


レキソタンハルシオンもない世界で、

不安も不眠もない部屋で。


また会えるならその時は、

あなたがあなたでなくても、

私はきっと、傷ついたりせずにいられる。


もういらない、もういらない。

だから、幸せになって下さい。


私は、幸せになったあなたが、

後悔するくらいに、大きな場所に立ちたい。

そして、

いっぱい傷つきたい。


綺麗なまま自殺するより、

傷つきながら生きながらえなければ。




変化と恒常と

シンプルな服しか着なくなった。

無地のシャツにスキニーやパーカーばかり。

突然服の系統が変わることはあれど、

ここまでの変化は少し以外だった。

それでも何故か、お兄さんには、可愛くなったねと言われていたらしい。

らしい、としか表記できないのは、友だちから伝え聞いただけだから。

私は何だか物悲しいなった洋服棚をみては、なぜか少し清々していた。

気温は下がり、さて今年はどんなコートを買おうかと悩む。

悩みながら、ギターを弾く。

昨日褒められたフレーズ、嬉しくて、何回も。

昨日覚えられなかったコード進行、悔しくて何度も。

私はどこにたどり着けるのか、わからないままに。

柔らかい毛布に包まれるような夕方。

静かに休みを促す明け方。

ふらりふらりと歩かなくとも、ずっとそこにある時間を再生してゆく。


夜中、アルバイトから帰ってくると、

お兄さんから、LINEが届いていた。

メールでデータを送りたいと書いてあるので、アドレスを送る。

そして、送られてきたデータを開くと、

練習中の曲の、お手本を曲に合わせて弾いてある音声データでした。

二分と少し、じっとその音を聞いたあと、

お礼の言葉を考えて書いて送りました。

嬉しくて何度も聞きました。



終わりの夢

世界が終わる夢を見ました。

友だちは、そんな時もバイトをしていて、

オムライスを作っていました。

私はそれを食べながら、友だちの母親が亡くなったことを聞きました。

それから私は鳥になろうとしました。

洋服を見つけて、何故かお兄さんのバンドのドラムの人がよく着ているようなものを見つけたりしました。

小さな小さな台の上で、お酒を飲みました。

下の方では、怖いものがうろうろしていたので、降りることは出来ません。

近くにいた人と、少しだけ話をした気がします。

下の様子が落ち着いた時、家に帰りました。

自分の部屋から、夕日を見ると、なんだかいつもと違っていて、あぁ、人間が滅びてしまったのかなと、実感しました。

それから、携帯の充電は切れてしまい、

一番声を聞きたかった友だちのことを思いました。

紙に思うことを書き連ねて、それからカメラで写真を撮りました。

ピントを合わせることを、忘れたままに、だれに残るのかもわからない写真を撮りました。

それから目が覚めました。


私は今、栄養ドリンクを飲んだりしながら、

バイトの準備を始めています。

知らない街へ、四角い車で

私は紺色のワンピースを着ていた。
もう、可愛い服は着ないと決めたのに。
足元おぼつかない靴を履いていた。

少し息苦しい、地下シェルターの中の、トンネルのような場所。
オレンジ色の電球が上に点々ととついていて、
私はそれに照らされていた。
きっと触ったら、暖かいようなオレンジ色。

いつの間に、少し冷たい空気の、どこか普通でありふれていそうな古い家の中に移動していた私は、
知らない人に囲まれて、そこそこ楽しく談笑していた。
廊下に出た時、私に続いて、1人男の人が部屋から出てきたのが分かった。
外へ行こうと、眼鏡をかけた男の人に誘われて、外へ行く。
さっきまで、夜だと思っていたけれど、
外は、多分、とても早い朝だった。
東側がとても綺麗なオレンジ色だったから。
とても心地いい風、崖になっているところの下には、素朴な街並みが見えた。
草が自由に生い茂っていて、何台かの車がある。
彼は、四角くて、黒い大きな車を選んで、私を乗せると走り出した。
さっきのトンネルを抜けて、まるで何かから逃げるみたいに。
私は、しばらく黙っていたけれど、
「ねぇ、これは、どこか目的の場所についたら、さっきの家に戻ってしまうの?」と聞いた。
すると、「そんなわけない、ずっとこのままだよ」と言われた。
私はなんだかすごく安心して笑った。
それから彼は、すぐに携帯電話を取り出すと、
引越し業者に連絡していた。
どこか知らない街で、二人で暮らそうということらしい。
明日には荷物が運ばれるので、今日中に家を決めなくてはいけない。
そして明日、私はまだ知らない家で、
運び込まれる荷物を待つのだ。

私たちは、どんどん景色を追い越して、どこか知らない、これから住む街を探した。
今までに感じたことがないような、
果てしなくてずっときらきらした景色を見ていた。

朝起きて、夢から覚めた私は、
あぁ、あのまま彼とどこかに行けば、幸せになれたのかなぁと膝を抱える。
メールの履歴の、
「俺よりギター上手くなったら、死んでいいよ」という一文をどう扱っていいかわからない。
やっぱり夢のなかにいればよかったと、そんなことを思ってみた。

シャンプーとピアス

シャンプーから始まる色んなものを、
髪につけは流すことを繰り返した。
最後にシャワーを浴びて、水を切る。
ベランダからとってきたTシャツを着た私は、ふろーらる、な香りになっている。
甘ったるくて、あまり好きな香りではないけど、髪も体も、酷く乾燥しやすく、このメーカー以外だと、うまくいかない。
私は香りを振り切るように冷凍庫まで来て、
チョコレートとビールを取り出した。
水槽の酸素を送り込む機械の音が、息苦しい程に静かだった。
一本目を空にすると、ヘアミルクをつけて、
ドライヤーで乾かす。
甘いふろーらる、な香りが、安物のドライヤーで焦げていく。
たくさんの花が焼かれる匂い。
火葬場?
なんとかまとまった髪を櫛でとかして立ち去る。
二本目の缶ビールを開けたとき、
隣の家から、笑い声が聞こえた。
私より先に死んだら殺すと、弱気になっている私を脅す友だちの声が、薄らと思い出されて、私は軟骨用のピアッサーを二つ、右耳のために注文した。
友だちの結婚式の招待状と、タブ譜が並んで落ちていた。
私はどっちつかずの顔をしながら、
LINEの返信をスタンプで終えた。